あとがきこの物語は、小説「青い春風」の続編として書いたもので、瑞希と彩子の二人の、とある一日の出来事を描いたものである。この二人をつなぐものは卓也という一人の男性だが、瑞希と彩子は、お互い全く面識がない。さらに、肝心の卓也自身も、作中に一切登場しない(回想では登場する)。また、青い春風を読んでいない人にも人物関係を理解できるように、若干の説明を入れている。青い春風を読んでいる人には、こういう説明がもどかしく感じられるかも知れないが、ご容赦願いたい。『全ては読者のために』という、私の個人的な創作哲学だと理解して頂きたく思う。私自身は、この作品の本当の主人公は卓也だと思っているし、もちろんそのつもりで書いている。私は、卓也という人物を描かずに、その周囲を描くことによって卓也という人物を浮き上がらせ、表現する、という方法を選ぶことにした。彩子は現在の卓也を、瑞希は過去の卓也を、それぞれ担当している。 今回の主人公の一人、瑞希という青年は、私にとって本当に「苦しい」人物だった。自分とは全く異なる人物、それもどちらかというと、苦手とするタイプの人間を描くということは、ある意味挑戦だった。幾度となく、書いては消し、書いては消す、そ - 1 -
の繰り返しだった。瑞希は、密かな野心家で、そういう点でシェイクスピアのマクベスと対応している。ちなみに、春風での卓也は自分の真意を隠すための道化を演じていて、同じくハムレットと対応している。ハムレットとマクベスは、よく陽と陰という比較をされるため、そういう意味においても、この二人はお互いを『引き立てあう』という効果を持っている。まあ、小説の中において、それが成功しているかは分からないが。
今回は原稿用紙換算で約百三十枚程度と短いものだが、それでも読むのには苦労するだろうと思う。最後まで読んでくださった皆様に、心から感謝すると共に、深くお礼を申し上げたい。最後まで読んでくれて、本当にありがとう。 二〇〇八年〇四月○一日 和泉直人 - 2 - | ↑ページトップ | |